秋のピアノ
飾 窓
鋪 道
レセプシオン
熱いモノクル
1-15
花のスピイド
1-14


篠懸の落葉が肩に散つて来る
ミラボオ橋のアポリネエルのやうに
過ぎてゆく貧しい季節の
船を眺める
永遠とも刹那ともつかず
翼を休めよ
この朝顔いろの日没の下

飾 窓
落葉のかはりに
秋の手套がならぶ
ひとつは胸にひとつは頬に
風がポケツトの中で温まつてゐる
スカイスクレエパアの硝子の上を
蜜柑のやうな雲が行く

自動車が林檎のやうに光る
彼女たちが美粧院の小さな塔のやうに散歩する
とある硝子に頬をよせて
ふと秋の冷たさを知つた
手をあげて
しかし何も呼び給ふな
風は眼鏡をかけて立ち上る

鋪 道
秋の霧が
街の灯をやはらかな花びらで包む
恨みよりも悔ひよりも近く
手と手との間を
落葉が流れ
ペデストリヤンの頬が芒の穂のやうに光る

冬が手套をはく
銀行の花崗岩に木の枝と小鳥が写る
怠け好きな友よ
人間でゐよういつまでも
午前十時の街を歩く
太陽が歯を磨いてゐる

レセプシオン
葡萄色のピアノの前で
睫毛の長いマダムが悪魔の砂糖のやうに笑ふ
際限もなく喝采せよ
曖昧な
かん高い孤独よ
コツプの中に
優柔な冬が暮れのこる

熱いモノクル
1
石から立ち上がり
絶望に歩みより
駒鳥も鳴き
ひとり怒る
パイプはつまり
名も忘れた


2
百合さく村をすぎて
砂丘に近く
さびしい手紙を読み
貝殻と
ボタンのみを眺め
ひたすら涙と海を憎む


3
緑の菓子を食べて
庭に出て笑つたが
鸚鵡の舌はきたなく
シヤボテンもきたない
樫の木に悲しくもたれ
いつまでも
まづいピアノをきく


4
日日が苦痛である
風つよく
牛乳を飲んで坐つたが
時計も止り
ポンペイの死もつまらない


5
壊れたビイル瓶を抱え
海べの岩に
馬をきき
帽子も破れ
荒涼とひとり憐れむ
セツクストオル・ポンペイよ
汝の死はつまらない
と僕は言つた
しかし乍ら
やつぱり汝の死はつまらない


6
茨の道をさまよひ
茨を踏み
神も泣け
すでに石も衰へ
絶対の
また純粋の眼はさびしく
鶯の声もうるさい


7
ちひさい丘をめぐり
僅かにすべる
死はあまりに遅く
憂愁に濡れ
ボタンもとれ
シツドの恋もうるさい
 


8
友よ
しかし友はなく
孤独はきたない
ひとり鶯鳴く村に行き
ジアガタラ薯の育つのを見よ
なみだも流れ
無花果の下等な繁茂に気を悪くする


9
マリゴオルドの花咲く岸辺
アヒルの群はまぶしく
運命の日
絶望に横はり
材木も見ず
河原鶸の声もやかましい


10
黒い頭巾をかぶり
百合の花を買ひ
櫟の林を横切る
夏の日の道はながく
絶望も久しい
トマトの光る村に横はり
ピアノはなく
青い胡瓜を噛み
農夫の恋に泪する


11
燃えるアスフアルトの道をゆき
汝の手は焼け
死は絶壁の手摺をさまよふ
僅かにミルクを飲み
疲れて笑ふ


12
雨の日
髭だらけの写真を破り
アネモネも見ず
金絲鳥も死ねと思ひ
カルデイヤの牧人の孤独よ
神は車輪のやうに重く
ひとり
葡萄パンを切り
僅かに怒る


13
白いポオチにもたれて
薔薇を折り
犬を蹴る
ブルウトナアのピアノも裂け
汝の腰はあまりに細く
菫を踏み
糸杉の庭をさまよふ


14
橡の森にいり
昨日の日を惜む女を嗤ひ
荒涼とアンニユイを忘れる
煙草はまづく
唇はかはく
茨の径で時計も落し
なみだが頬を流れる
   
疲れ
丘に立ち
ひとり
さびしく愛を侮る


15
熱い砂
に坐り
思ひはこごしく
横顔も見ず
太陽とボオトを憎み
蟹をける
七月の午後
海はうるさく
恋人もパラソルもうるさい
かなしくキヤラメルを甜め
汗をかき
退屈する


花のスピイド
1
僕は一匙の街を持つてくる
眼には涙が一杯だつた
先卒御遠慮なく御持ちかへり下さい
絶賛の嵐にのつた女性より


2
彼女 それはまた一人の彼女だつた
さてどちらに軍配があがりませう?
いちはやく嗅ぎつけたのが犯人であらう
月の光りに照らされて


3
全身の血が震へて来るのに気がついた
時計を握らせて置いてリボンは窓掛けの外に垂れませう
折りも折ドアをたたくものがある
襟止めの権化のやうに


4
禁止が何の役にたちませう
噴水の下はアンブレラに限ります
まだ唱はないのですか?
レダの巣籠りする半球の蔭によりかかつて


5
肌着を頬に押しつけてゆく
ことごとく彼の行動は彼に不利であらう
僕の秘密を見せてあげる
家を失つた小鳩のやうに


6
青い麦酒に抱かれて
そして自由に生きてゆかなくてはならないのだつた
房やかな金髪をぐるぐる巻きにさせられて?
僕はこの電話を利用した


7
晩餐会は焼きつくやうに配置されました
鴎のことを話しながら
しかも豊かな天分に恵まれた
窓の意味あり気なサインを見てゐる人に


8
あかるい晩
年来の渇望を医し
微に入り細に渉つて美しい声を出しました
これを機会に第一流の不倖は
花屋の扉に応じて調節いたします


9
誤解が容易であるために
アカシヤ樹には水晶の蓋をしたいものです
大いに悲しく唄ひませう
御自分の物になると否とに拘らず


10
言ふまでもなく永遠の暴落は
典型化されて彫刻的効果を持つてゐる
電流は断たれ
葡萄の葉がまちまちにざはめいた


11
音楽をめぐり
無謀の片鱗を挙げる
眠りゆく都の石よ
蝶は愛する技術です


12
寝室のラムプの影で
蔦のテラスが揺れてゐた
岩地が半円を描いて
古い都の経済はママも知る通り


13
あなたの胸の貝殻に
八月の海が鳴つてゐた
あなたの実に白いベレ
僕のまづしいカンパニイのために


14
百合香の匂ふ朝
もうさようならを言ひませう
御希望の方は木製のプデイングに就いて御話し下さい
靴下のやうに焦りながらも